死んでも誰も見てはくれない。 生きてても誰も見てはくれない。 だからどうでも同じなので 私は生きて行くのです。 http://dogramagra.tripod.co.jp/
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2分の1に裂かれた僕と真っ赤に咲かれた君の爪あと このまま色褪せるならいっそこの鋏で 希う僕は足の裏に刺さる無数の画鋲にさえも気付かずにいた 君の裾模様 引き摺って歩く様は×××× 涙を零し 花を毟り取る君とどこまでも…… 君のおかげで 僕は狂い出しそうです 人を1人狂わせることができるなんて 君は凄いですね 僕など 君の表情1つ 変えることができないというのに
ダマサレルノワカッテタノナニガチガウイマノアナタトイマノワタシオナジデショチガワナイチガワナイチガワナイ・・・・・・・・・
永遠に失われたエウリュディケ肉体に封じ込められた彼女の魂は解き放たれ触れるものすべてを黄金に変えながら神の世界へと羽ばたくそして取り残され、八つ裂きにされたオルフェウスの首は禍歌を口ずさむのだ http://www1.ocn.ne.jp/~jupiter2/
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二十二か、三の頃だと思う。二十四才で色覚を完全に失ったのは覚えてるから、だいたいその頃だ。壊れかけのテレビのように、ちょっとした衝撃や心の変化で、私の視界はモノクロになったり、元に戻ったりした。また、モノクロであっても、輪郭や急に明度が変わるところ、たとえば星の色はよくわかった。眼下の風景はモノクロなのに、夜空だけが依然として正常で、遠い異境の地に立つような疎外感があった。 服を買うときも、モノクロばかりになった。いつか完全に色覚が失われることは医師から聞いていたから、自分で気付かないまま奇妙な配色の姿で外にでることを恐れたのだ。食事はひどく味気なくなった。見栄えが悪い食べ物はモノクロになると尚更グロテスクで、口に運ぶのがひどく辛かったし、味は変わらずおいしくても、なんだか目を閉じて食べているような齟齬があった。 朝方、川に沿って歩くのが習慣になった。川といっても、ただの用水路で、増水時用に高さは二メートルほどあるのだが、水は足首が隠れるほどの深さもない。それほど浅いのに底が見えない。洗剤の泡やビニール、野菜屑が流れるドブ川だった。左右に無機質な雑居ビルが押し寄せていて、アスファルト敷きの歩道は人がすれ違うのがやっとだ。一定の間隔で橋がかかっているが、車一台通る幅しかない名前さえない橋ばかり。まるで誰からも存在を忘れられた場所に思えた。 それでも私にとって、そこは居心地がよかった。季節を感じさせるような並木は、帰ることのない時の流れと失われてゆく視覚を意識させた。実際、その散歩道はモノクロでもカラーでもさほど変わらず、すれ違う人もなかった。 だが一度だけ、そこで人に会ったことがある。視界がモノクロで、空は白く輝き、それが曇りなのか日本晴れなのかはわからなかった。理由は忘れたがそのとき私は上機嫌で、いつものように歩いていると川に人が立っていた。全身をすっぽり宇宙服のような防護服で覆っていて、ひどくシュールな光景に思えた。じゃぶじゃぶ川の水を蹴散らしながら、ゆっくり上流に歩いているのだが、なにせ頭まで半円形のカバーに覆われていて、後ろから追いついた私がその人の横まで来ても、顔は黒っぽい半透明のカバーに隠れ、うっすらとしか見えなかった。頭髪をぴったりしたゴムかなにかで覆っているらしく、男のようだが年はわからなかった。 なにをしているんですか、と滅多になく気分が良かった私は、普段なら黙って通り過ぎるのに、珍しく男に問いかけた。(こどもをさがしているんだ) カバーを通して聞くせいか、男の声は妙に平板に感じた。こどもですか、と私は続けて聞き返した。(ああ、きのう、みずあそびをしていてながされたらしくてね) 男は、少し背伸びするように身体を起こし、川の遙か上流を望んでいた。すると、不意に厚ぼったい宇宙服に覆われた腕を水平に上げ、なにかを指差した。 つられた私がそちらを向くと、黒い川面に細長くつるつるした物、白い色したウィンナーのようなものが、ゆっくり流れてくるところだった。橋に遮られて、見えなくなったりまた姿を現したりを繰り返し、近づいてきたそれが裸の男の子であるのに気付くまで、さほど長くはなかったと思う。まるで眠っているように、右半身を上に身体を横に向けたまま、目を閉じて右腕を少し前に投げ出すようにしている。うつぶせになってしまわないよう、右腕で水底を支える姿勢をしていた。川面に浮く油だか洗剤だかの、虹色の模様が少年の黒髪に絡まる。私の目にはその虹模様だけが唯一の色だった。ひどく痛々しい気持ちになって、流れにのり近づく遺体をただみつめていた。やがて、それは宇宙服の足元まで流れ着いた。(かわいそうに) 男が少年の腕をとり、ひっぱりあげる。(このかわには、どくがあるんだ。みろ、かわいそうに、こんなにけずられて) 少年は、左半身がほとんどなかった。切断面から、ぼとぼとと黒い臓物が落ち、流れていく。モノクロの視界の私には、それは黒いビニール袋のようにしか見えなかった。
夏の頃、小さな家がそこにあった。貧しい母と娘が慎ましく住んでいた。それは本当に小さな家。そこには二人の暮らしがあった。裏には小さな花畑。犬が一匹繋がれて人懐こく尻尾を振っていた。そんなささやかな幸せがずっと続くと思っていた。けれど母は家の中で首をくくり、娘は親戚に引き取られ、小さな家は人手に渡る。それ以後その家には奇妙な翳りが見えた。作り話だと思うかい。本当のことなんだよ。だって、私の家も祖母が首をくくった。そして暗い翳りはやはりそこに見える。見えるんだよ。 http://www.d2.dion.ne.jp/~shinju/
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苛めて遊ぶ、お人形。私の可愛いお人形。でも最近はなんか、変。手足がすぐにぼろぼろになるの。腐っていく嫌な匂いもするの。ああいやだ。ああいやだ。あなたもやはり腐るのね。私を置いて腐るのね。ばいばい、腐肉に用はないもん。
ぽつんと灯る小さな赤い光を、長いことみつめていたように思う。薄墨の夜空を背後に無音のビルディングが黒々そびえ立ち、その天辺で赤い光が輝いている。飛行機などに警告する光なのだろう。 そんな光景を、闇に丸く切り取られた天窓の向こうに眺めていた。ガラスは誰かが石でも投げ込んだのか、放射状に割れている。少し身体を揺らすと、赤い光とガラスのヒビが交差して、踊るように揺れた。「ブッ……」 揺れる光の面白さに、なにかが口から漏れようとした。「……ポウソウ」 思わず眉を寄せた。おかしい、私はなにを言おうとしたのか。「ブッポウソウ」 我に返った。胸苦しいような不安に襲われ、周囲を見渡す。アーチの列が暗闇に溶ける限り奥まで続いている。スプレーの跡、タイルに散乱するガラスの破片、ヒヤリとした空気。遠くから都会らしい交通や人々の音が聞こえてくるが、それもかすかだ。天窓からの光が届く範囲の外は、なにも見えない。「ブッポ……」 思わず口を押さえる。どうして言葉がでない? そのとき、背後で砂利を踏む音がした。「カッ……」 振り返ると、白く細長い布きれがフラフラ揺れていた。闇の中をこちらに近づいてくる背広姿のワイシャツだった。「コー」 体格のいい男だ。なぜか黒縁の眼鏡をしている。嬉しそうに左右に身体を揺らして、少しずつこちらに近づく。「カッコー、カッコー、カッコー……」 天窓からの光と闇の境界に、男は足を踏み入れた。光が男の革靴を、土誇りに汚れたズボンを、赤茶色の染みが点々とつくワイシャツを照らす。植物柄のネクタイがワイシャツのポケットに丸めて突っ込まれている。男の顔は寒さに凍えたように青白いのに、口の端には笑みを浮かべている。「カッコー……カ」 男の眼鏡は放射状にヒビが入っている。左右どちらもまるで同じヒビ。赤い光がレンズの上からスーッと降りてくる。ああ、あの天窓を見上げようとしてるのだな、と思ううちに、男はあんぐりと口を開けた。歯が一本もなく、まるでネジのような渦巻き状の傷が喉奥まで続き、涎と血が混じって垂れ落ちる。「コー……」 放射状のヒビの中心に赤い光点が一致したとき、男の口の中に赤く小さな光が灯った。それは加速度を増しながら男の口から勢いよく飛び出すと、羽根をまき散らしながら黒い翼をはためかせた。赤い目の描く軌跡がチャリンと小さくガラスを震わせて、天窓から姿を消した。 鈍い音がして、見上げていた顔をうつむけると、男が倒れている。(……カラスめ) 毒づきたくなるのをこらえた。横隔膜の辺りで、なにかが私の肋骨をつついた。
本当は君に話しかけたかった本当は君に触れたかった 本当は君に殺されたかった
ムシャクシャした日はヒトケの無い夜道を歩いてみよう君を狙ってくる 通り魔君が隠れているはずだから彼らをひと思いにブン殴るのは気持ちいいよケケケ
理科の時間にセンセイ が言っていたホントの話死んだおじいちゃんが山に埋められたって。死んだそのときのまま お肉をつけて秋になってその周辺にキノコが生えてたって怖くて取れなかったって センセイ言ってたけどホントとは嗤って取って帰ったんでしょ、センセイね…そして家で煮てみんなで食べちゃったのねおじいちゃんの味 オイシカッタ?【ごちそうさま】
細胞が分裂し、コピーを作っていくように自分自身も分裂し、コピーを作っていくそう納得するしかないだろう今まで僕は何度死んで、生きたことか・・・人の生死は死ぬまで繰り返される
霧の中 迷う田舎道突然 老婆の怒りの声 「わしの畑を踏み荒らすな!」身の丈4尺ほど ふと表情を変えて「ほほぅ。おまえの墓場なら知っておるぞ」呆然と付き従い辿り着く 不思議な部落きつい香のにおいが漂い 軒先に集う 様々な形をした人間たちが余所者の私を見て せせら笑う「これがおまえの墓だ」そこには確かに私の名前が刻まれていたがそこにある両親や祖先の名前は まったく知らないものだった混乱した私は 手当たり次第に人をつかまえてこれは何かの間違いでしょう と訊きまわるそのとき ひとりの西洋人の民俗学者が現れ こう言った「君はそもそもはじめから 間違っていたんだよ」 http://www.my-melody.com/cgi-bin/artist.cgi?id=a001174
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ある日、 道端の生乾きのアスファルトを喰っている人を見かけた。 何処かで見たような顔だったが・・・・・ おかしな人が世の中に入るものです。 嘘です。 そんな人居るわけが無いじゃないですか。 ねぇ?
落ちた海は、畜犬の海。腐れ、這いずり回る畜犬の海。我独り泳ぐ畜犬の海。赤の、青の、黒の、紫の、腐れ虚ろう畜犬の海。我独り往く畜犬の海。爛れて流れる畜犬の膿。可笑しさの余り笑いが止まらぬ。只の、冗談ですか?
した した した した・・・滴れる水の音。私はひとり、黄泉帰る夫を待つ。した した した した・・・あれは、腐肉を滴らせる夫の足音。 http://www1.ocn.ne.jp/~jupiter2/
独りのたった独りの女が居りました。「どうにも、此れは好くない。」 其れは判っていたのですが、どうにも彼女は、なんとかする術を知らなかったのです。無論、独りですから、誰も教えてくれません。しかし、実に彼女は学ぼうとしなかったのでも在ります。 彼女は目が悪いのです。仕方なく、目にレンズをはめ込んで、痛み涙しつつ、周りを見回しました。すると、妙に世界が明るく、濃く見えました。 彼女は一瞬、其のことを喜びました。しかし、暫くして目にレンズを嵌め込んだ事をひどく後悔しました。 この世界は、恐ろしく、けばけばしく、何もかもが彼女を脅えさせたのでありました。「こんな世界、怖くて恐ろしくて、私にはどうしようもない」 急いで、レンズをはずして目を閉じました。ですが、何度目を洗っても、擦っても、そして目を閉じても、一度見た世界は焼付いて離れません。 そう。彼女は見なくてもいいものを見たのです。しなくていいことをしたのです。学ぶことをせずに、レンズに頼り世界を見て、それで独りでなくなると思った彼女は、だただた、愚かな人間だったのです。そもそも、この世界は、自分の身の丈にあったようにしかなく、自分の身の丈にあった様にしか見えないのです。 なによりも。はじめから、この世は恐ろしいものでしかなかったのですから。
真っ白だった真っ黒だった茶色だった あの時のわたしどっちが本物か確かめてみてわかったわたしはわたしだった月の下青白い明かりと版画のような木月光でできた影わたしの肢体 瞼を閉じた目 土の中 さようなら わたしでないワタシ
花よ花、ああ、そこの花よ、おまえのことを言っとるんだよそんなに艶やかに咲くもんじゃないよそんなに煌びやかに飾るもんじゃないよでないとおまえ早く散ってしまうじゃないか
子供の頃の記憶だから、前後のことは覚えていません。私は両親と共に、ある団地の十二階に住んでいました。ベランダのある、2LDKだったと思います。近くに工場があって、そこに勤める人達五百人以上が生活する、マンモス団地でした。 私達家族が住んでいた棟は駅にいちばん近く、ベランダにいた私は(なぜベランダにいたのか覚えていないのですが)隣のビルの屋上を眺めていました。ベランダはセメント塀の上に鉄製の柵がのっているタイプでした。小学生の頃でしたから、普通に立った顎の高さにちょうどセメント塀が来ます。私は平たい鉄製の柵を両手でつかんで、そう、外側から見れば、ちょうど「俺は無実だぁ!」と叫ぶ囚人のようだったかもしれません。 隣のビルは、三角ビルと呼んでいました。ほら、駅前って土地が高いでしょう? そのせいか、細長い土地に無理矢理建てたようなビルがあるじゃないですか。あのビルも、多分そうだったんです。駅側は普通に幅があるんですけど、私から見える側は、極端に幅が狭くなってるんです。大人が、手を左右に広げたくらいだったかな? 上から見ればきっと、台形型のビルだったんですね。 恐らく、そのビルの高さは十三階だったと思います。そのビルに入ったことはなかったですけど、ちょうど一階分だけ向こうの屋上が高かったので。 屋上には人影がありました。大人と、少年です。大人は男性で、殺し屋みたいに黒ずくめの服を着て屋上の縁にいました。低い柵はあるんですけど、乗り越えたんでしょうね。日本晴れで、三角ビルの向こうに大きな建物はありませんでしたから、なんというか、青空の中に三角ビルがニョッキリと先頭の煙突みたいに突き出ていて、男の姿は青空を影絵みたいに切り取って作ったように見えました。少年のほうは半ズボンに野球帽を被っていましたが、誰なのかはわかりませんでした。顔が見えなかったんです。黒ずくめの男は、少年の首を両腕で締め上げて高々と持ち上げていたんですけど、少年は背中をこちらに見せていましたから、見えなかったんです。自転車でも漕ぐみたいに少年は腕や細い足をバタバタ振り回してました。その足が邪魔で、男の顔も見ることができませんでした。 団地と三角ビルの間は距離が離れてましたから、その二人の姿は小さいものでしたし、声も聞こえませんでした。三角ビルの屋上の縁は、大人二人が並ぶこともできない狭さです。黒ずくめの男は、少年の首を締め上げながら、なにか言い聞かせているようでした。少年の足の影が、ビルの壁にのびていましたから、少年の身体は完全にビルの屋上の縁の外側にあったんでしょうね。 やがて、少年の身体はグッタリして、ダランと四肢をぶら下げました。男は少年の身体をゆっくり、こちら側に向けながら屋上に寝かせました。このときも、けっきょく少年の身体が邪魔だったり、男がうつむいてしまったりで顔は見えませんでした。ただ、少年の顔はチラッと見えました。覚えがあるような顔だったのですが、いまも名前はわかりません。次に男は、右手に金槌を持ち、左手にはなにか細長い、暗い赤色の布きれのようなものを持っていました。遠くてわからなかったんですが、どうやら右手には釘も持っていたようですね。そして、身を屈めて、屋上の縁に近いビル壁に、布きれの端を釘で打ち付け始めたんです。ビルの壁は当然コンクリートですから、これは結構大変だったでしょうね。結構、時間がかかったと思います。 それから、どうにか釘を打ち付けられたのか、男が汗を拭いながら身体を起こしました。なにをしてるんだろう、と見ていると、男は横になっている少年の身体をズズズッと押しやりました。まず腕がダランと屋上の縁から落ちて、それから身体全体がブランッと屋上からぶら下がりました。アレッと思ったら、どうも細長い布きれは、ネクタイだったんですね。少年なのに、ダークブラウンのネクタイをしていたんですけど、ほとんどずっとこっちには背を向けていたので、私は気付かなかったようです。ぶら下がったときの衝撃と自重のせいか、首が折れたらしく、少年の首は変な方向を向いていました。野球帽が脱げて、ビル壁に沿うように落ちていくのを私は目で追いました。 それから、男はどうなったんだろう、と私は視線をビルの屋上に戻しました。男の顔はどんななのか、興味もあったんです。ところが、男はいつの間にかこちらに背を向けて、なにか重いものでも持ち上げるみたいに、腕を地面近くにさしのべて、腰を落としています。なんだろう、なにをしているんだろうと思ってみていると、男はすっと腰を上げました。 そのとき、私は見たんです。男は、青空を持ち上げていました。まるで、布に描かれた青空の絵が三角ビルの屋上にあるように、なんでもない感じで軽く青空を持ち上げました。その向こうは、ただただ暗いばかりでなにも見えません。男はひょいっと青空の向こうに潜り込むと、姿を消してしまいました。
水道水の上を 金魚の腹がプカプカ浮いていた 貴方に此処は冷た過ぎる 私には、遠過ぎる 蓮台から墜ちましょう
倒れるまでに、蹴飛ばされ、そして見た物、幻か。
できるだけ、患者の顔から目を逸らした。話しにくいだろうし、精神的不安という病を抱えた人間に、強迫的な印象を与えてはいけない。といって、相手の話の間中ボールペンの尻をカチカチやっているのも、こっちが神経質じみてる。なかなか難しいわけで、しかたなしに相手の胸や膝の上辺りをみつめることになる。 「悪夢をみるんです」 ゆったり深く座れるクッションなのに、患者はリラックスどころか膝の上で指を何度も組み直す。痩せて筋張った手で、何か演技している役者のようにも見える。 「ガード下の歩道です。列車がひっきりなしに上を通過して、とてもうるさいんです」 手のひらが、今度はワイシャツの一番下のボタンをいじりだす。 「ガード下は、真っ暗です。昼日中で、日射が焼け付くように強いのに、ガード下とその向こう側は暗いんです。ガードの向こう側だけ、夜なんです。蛍光灯が一列になって……男が仰向けに倒れています。背広を着ているみたいですが、暗くてよくわからない……起きあがりかけているように上半身を起こしかけて、シルエットしかわからないんですが、なんだか不自然なんです。後ろ手をつくこともなく、前に差しのばすでもなく、男は両の手を腰のあたりにそえたままで上半身を起こそうとしている……腹筋でもしてるみたいに」 患者は両手を、膝の上にそろえる。心なし、震えてる。 「私はガード下へ向かって歩いてくんです。そのときはまだ悪夢とわかってなくて、なんだろう、あそこで眠ってるのは誰なんだろって、近づいていくんです。やがてガード下に入って……列車の轟音が鼓膜をパチンと弾き割りそうなほどやかましい……誰だろう、誰だろうって思いながら近づいて、やっと目が暗いのに慣れてきて、わかるんです」 手のひらを裏返し、透明な何かを持ち上げるように、少し、膝から浮かす。 「そこにいるのは、一人じゃないんです。倒れる男の脇の下を、そいつが後ろから抱え起こしてるんです。少年のように背が低くて、でも瞳が冷たくて……近づいて行くとだんだん見えて来るんです。仰向けに倒れる男の頭の影から、次第に奴の顔が……ウェーブのかかった黒い前髪、あの冷たい瞳、ああ……そして、血に濡れた口」 胸元まで患者は手のひらを持ち上げ、パタンと落とす。私は目を逸らし、ボールペンで頭を掻きながら、カルテに目を落とす。 「その後、私は目を覚まします」 私は、また患者の膝の上に、視線を落とす。 「頭の中がボーッとして……なんだか、よくわからないんです。夢のことを想い出しながら……私は洗面所に行って、顔を洗い、剃刀を手にして……鏡を見るんです」 膝の上にあった手が、また、ゆっくりと、あがっていく。 「夢の中の情景が頭の中に再生されて……私はすごく奇妙に嬉しくなって、自分の頬をなでて、笑いながら剃刀を……」 語尾を濁らせながら、患者は頬に手のひらをあてて、直線のかさぶたが縦横に走った顎をなでる。痩せた蒼白の顔を斜めに傾け、唇の端から涎を垂らし笑いながら瞳を見開いて。
闇の中 閃く剃刀 闇を切り裂くように 自分を切り裂く 傷口からドクドクと溢れ出る生暖かい血液を 全身に浴びて 私は 生まれ変わる
抉られた体の一部が 一層のスゴミを醸すのは キミが生きているからだ 標本のように動かない 固まりになってくれればいいのに
目の前に櫻、貴方の前にも櫻、 花びら舞い落ち、闇も尚。 一重二重飛び散って、貴方の死体に墜ち果てる。
乱反射する 月の光の中で 微睡む あなた 回る 回る 生命の神秘 捻れて 月と太陽に背いて わたしは あなたを 愛し続ける http://www1.ocn.ne.jp/~jupiter2/
私は眠りに落ちました。 口から血を出し、永遠の眠りにつきました。 貴方はそれをじっと見てるのですね。 どうか永久に見ていて下さい。
汝が首の温かさよ 其れに触れる己が掌のこの心細さ 力を込めたら貴方はどうしていたことか? ただの温かさでなく 己だけの温かさが欲しい 其の後は誰も味わい得ぬ 貴方の首の温かさが欲しい 貴方は其れを知らず 微笑んでいた
いつから、こんなに匂うようになったのか。毎日、家族のために食事を作っている台所。毎朝、鼻歌混じりに味噌汁をつくり、今夜のおかずに頭を痛めながら冷蔵庫を眺め、床下に漬物を作り、窓辺で花を育て、食卓に眠り込もうとする夫を揺さぶり起こし、義父の葬式には親戚一同皆集まって、慌ただしかった。 台所に立たない日は一度もなかった。なのに、こんな匂いがするなんて気付かなかった。食卓の端に置かれたビニール袋を眺めながら、麻痺したような頭で私は椅子に座り込んでいる。テレビが夕方のニュースを放送している。いつの間に点けたんだろう。 遠くで蝉がないている。子供達が歓声をあげ、踏切が甲高く警告音を響かせる。夕暮れの濃密な空気に包まれて、その音はどこか優しい。壁の時計が、単調なリズムで秒を刻む。 不意に、ビニールのガサリという音がした。私は顔をあげた。いつの間にか、うつうととしていたらしい。頬杖をついていた腕が、ずっと頭の重みを支えていたせいか、ひどく痛い。 目の前の床に、卵のパックが落ちていた。いけない、スーパーに行ってきたというのに、買ってきたものを片付けるのを忘れていた。卵パックがつぶれないよう、ビニール袋のいちばん上に置いたのに。 ああ、もったいない。床の上の卵パックは、いちばん隅の一個だけ割れて、中から灰色の脳味噌がこぼれ落ちている。 私は隣の居間に目をやった。倒れて大の字にふせる息子の割れた頭から、黄身がこぼれて絨毯に染み込んでいる。 いつまでものんびりしてられない、と私は思った。葬式が始まったら、また親戚の者達が押し寄せて忙しくなる。
「知ってるよ。全て解っているさ。」 何を知っていると云うのだろう。 自分でさえもワカラナイのに。 誰なんだろう。 僕の心に囁きかけるのは。 「知ってるよ。全て解っているさ。」 僕は膝を抱え、昨日を思う。 僕は涙を流し、明日を思う。 「そんなに辛いんなら殺っちまいな。」 僕は暗闇で目を見開いて、吠える。 転がる身体が、月の光でボワっと映える。 「知ってるよ。全て解っているさ・・・・。」
学校のトイレに入ったとき ドアを開け放したままの 一番奥の便器から ガサゴソと音が聞こえた ヒトケもないようなので 聞こえない振りをしていた
人間(ひと)、ならば・・・ 大殺戮の・・・血の匂い? ・・・草刈り、あとの・・・野の、かぐはしき
月の裏側に母の面影を追い求めて 少年は旅に出る ヒンヤリとした月を懐に抱いて 少女は眠りに墜ちる その頃 月の上では片目の蛙が帰らぬ主を待っていた 誰が知っているのだろう 本当の月の顔を? http://www1.ocn.ne.jp/~jupiter2/
汝がさだめ狂はすは我愛といふ言葉の刃を手に握りしめ nnagasadame kuruwasuwaware aitoiu kotobanoyaibao teninigirisime
ぎゅっと首しめた。 その首の跡には赤い色。 http://www2.neweb.ne.jp/wd/artisan/beniosiroi
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美しき黒髪まさぐる手彷徨いて魔性の夢の匂い立つ夕べ http://www1.ocn.ne.jp/~jupiter2/
ちっとばかり古ぼけたビジネスホテルは、かえって広くていいもんだ。楕円と渦巻き模様の壁紙も色あせて、照明を消してあるもんだから闇に溶けたようになってる。ベッドの枕元の蛍光灯だけがうつぶせに眠る女のうなじを照らして、乱れた髪がシーツの上を這っている。麻酔が効いているから、髪一本身じろぎもしない。 全裸の女は下半身をシーツに覆われ、俺は女の腰に馬乗りになって鉛筆を握っている。二つボタンのスーツの上に半透明ビニールの雨合羽を後ろ前逆に着込んでいる。そうしないと、隙間から血が飛び込んでシャツに染みをつくりかねん。 いざとなって鉛筆を握ったところで、なにも思い浮かびはしない。あんまり書くスペースはないから言葉は考えて考えて選ばないといけないってのに、なに書くかなんて肝心なことは考えてなかったんだからお笑いぐさだ。 なんとはなしに、女の頭の上に手を伸ばし、手垢のついた紐を引いて、明かりを消してみた。アルミサッシのでかい窓から表通りのネオンの青い光がどこからともなく反射して射し込んでいるのか、女の背中の複雑な模様が紫色に染まっている。赤と青を混ぜたら紫になる。 詩を思いついた。形而上的な黙示録的幽玄世界。俺は鉛筆を握りしめる。木でできた鉛筆の肌触り、柔らかい芯がこすれて黒く切れ切れの線を残す。古い造りだけにかえって防音がしっかりしていて、鉛筆の芯の音が聞こえてくる。 そのとき、俺の尻の下で、女の身体が動く気配がした。 麻酔が足りなかったのか。俺は左手で、シーツの脇に転がしていたメスを手にとり、逆手に握った。眠りが浅くなった途端、激痛が刺激したのだろう、女は自分の背中を確かめようと、めったやたらに後ろ手に腕を振り上げる。 俺は女の腕にメスを斬りつけた。暴れる女の腕が偶然、枕元の照明の紐を引っ張り、またたきをしてから蛍光灯がついた。俺の詩が刻まれた女の肩胛骨が照らされ、俺は哄笑をあげながらメスと鉛筆を交互に振り回した。
クルクル回ル アナタ見テ回ル カイテンオエタラコワレテシマウ カイテンオエタラ、僕モ死ヌ
オリヒメ 七ツノ眼デ感ズ イトシキヒトヲ イトシキヒト 七ツノ眼デ感ズ オリヒメヲ 嗚呼オリヒメハ動カナクナツタ イトシキヒトノ引ク、牛ニコソ轢カレ 嗚呼オリヒメノ焼キツイタ瞼 イトシキヒトノ引ク、牛ニコソ轢カレレドモ 嗚呼イトシキヒトハ動カナクナツタ オリヒメノ流サレタ みるきぃうぇいニ飛ビコンデ 嗚呼イトシキヒトノ焼キツイタ瞼 オリヒメノ流サレタ みるきぃうぇいニコソ飛ビコメドモ 嗚呼―― 牛ダケガ其処ニ立チツクシタ。 ___ そして。>まほ。 ↓は、誤字か?其れとも・・・(^^; いやむしろよい。オカシくなりそーな雰囲気がよく出てる。 そのままにしときよし。(笑)
アノ人ガ紙屑ノヨウニ燃エルノヲ 木ノ上カラ見テイタ 脂ガ焼ケル臭イニ涙ガ出タ アノ人ノ手ガ宙ヲ掴ミ ソノ側デ犬ガくるくるト回ッテイタ http://www1.ocn.ne.jp/~jupiter2/
私はあなたの幸せをいつでも祈っています。 アノオンナニツイテイカナイデ アナタガツイテイッタラキット アナタモアノオンナモコロテシマウ 心の中で暴れ出しそうな感情を抱えて、 今日もあなたとあの女が一緒に笑うのを ひとり笑顔でみつめていました。
鏡に映った自分が 微妙に膨らんでいるように見えた たいして気にすることもなかったが 今度は影が薄くなってきた どうすることも出来ずにいたら 色が褪せてきた 相変わらず膨らみ続けているようだ
左の手首に結んだ髪の毛。 おまえのか?なんなんだ?
憂ひひとつ持たぬ者はあらざりき横目にてみる龍之介の顔
君と出逢つたあの頃、此処は桜の森。何も知らずに、独り歩いてゐた。花は散る。いまや誰も桜とは思はないこの森。闇の中、二人歩ひた。きつと互いに必要だつた。二人は闇であり、闇は二人であつた。森を抜け光を見るまでは。君には光。嗚呼君は永久に光だ。私を受け入れぬ光だ。花を散らせた桜が、君を酔わせたのだと。
不完全な僕は掻き落とされ、痛みが体を突き抜ける。母の泣き叫ぶ声に耳鳴りが止まない。冷血に満ち溢れた瞳に、血塗れの右手の無い僕が映る。そのまま黒いビニールに包まれた・・・これが愛なのかもしれない・・・ありがとう。
目を閉じたおまえ、目を開けたおれ。目を閉じたおまえ、首を絞めるおれ。目を閉じたおまえ、くちもとがゆるむ。
見えいるのか、いないのか。聞こえているのか、いないのか。死んでいるのか、いないのか。俺は誰だ、君は誰だ。ひた走る。夏。一寸先は、闇。
その日……私は午前様で、二日酔いに痛む頭を熊手の形にした指先で強く押しながら、帰途の途中の細い裏路地で、妻と二人の子供が待つ高層マンションを、思わず見上げたものでした。さて、なんと言い訳したものやら。 昇り始めたばかりの初夏の太陽に照らされて、白い壁面が輝いています。この辺りで高い建物は他にないので、二十五階建ての、上から見ると正方形に近い形をしたマンションは、この古い瓦屋根の並ぶ町を見下ろす監視塔のようでした。(お……や?) 不思議に思いました。マンションの上部、そう、二十階から上くらいが、すべて針金でできたシートのようなもので、覆われているのです。このマンションは昨年できたばかりで、私達の家族も半年ほど前に県外から引っ越してきたのでした。ところが、できてから間もなく小火騒ぎがあったり、二人もの自殺者がでているのです。小火騒ぎは上のほうの階でしたから、外壁修理でもしているのでしょうか。 私は不意に……興味が湧いてきました。てくてくと歩き、マンションにたどりつくと、いつものように家族の待つ八階ではなく、最上階へのエレベータのボタンを押しました。最新のエレベータは、音もなく上がり始めます。 学生の頃を思い出していました。私は二年ほどで退寮して、二階建てのコーポの一階の部屋に移りました。思い返してみればどうということもないのですが、私は、一度もそのコーポの二階に行ったことがなかったのです。それはひとえに、用がないからという単純な理由だったのですが、深夜、天井を見上げ、ああ、あそこにも人がいるんだなと思うと、なんとも奇妙な胸心地がしたものです。 そんなことを思い出していると、小さなベルの鳴るような音がしました。エレベータの扉が左右にわかれ、真っ白な朝陽が金網越しに差し込み私は思わず手をかざしました。 薄い雲が広がっているのか、不自然なほどに空は真っ白でした。均一に白い空は、ミルクの液面のようです。私はエレベータからでると、玄関ドアが等間隔で並ぶ廊下を進みました。 金網越しに、ミニチュアのような町が広がっています。小さな山、ほとんど車のない県道、朝の町は少しずつ動き始めているのでしょう。 廊下の端まで来ました。角を曲がると、うめき声が聞こえてきました。なんだろうと思い、視線を廊下の奥に向けると、人影があります。老人でしょうか……まばらな白髪頭で、金網にしがみつき、町を見下ろしています。腰が砕け、膝を手すりに押しつけ、半ば金網にぶら下がるようにしています。「おお……お……」 金網を奮わせて老人は叫びます。 私は困惑しました。痴呆症なのでしょうか。徘徊老人でしたら、声をかけねばなりません。「あの……おじいさん?」 声をかけようとして、老人が、右手になにかぶら下げているのを見ました。大きなX字のハサミのような……ああ、ペンチではないですか。 老人が、振り向きました。涙の筋が瞼から口元へと流れ、キラキラ光っています。老人は、皺だらけの指で、なにかを指しています。金網越しに人差し指だけを斜め上に……空の方向に指しています。 私はつられて、そちらに顔を向けました。そして、あっと口を開きました。 なんと……真っ白な空に、穴が開いて、暗闇が覗いているのです。ポッカリと、空に浮かぶ巨大な黒い円。太陽よりも月よりも遙かに大きい……円形の夜の中に、星が浮かんで、ああ、あれは、なんでしょう? ビロードのようなオーロラのような、いや、あれは、もしかして。 私は、全身が凍り付くのを感じました。声にならない叫びが横隔膜を痙攣させます。 あれは、オーロラではありません。虹彩です。 巨大な眼が空いっぱいに浮かんでいるのです。 私はふらふらと後ずさると、玄関ドアの脇の壁にドシンと背中をつけました。そのまま、腰が砕けたようになってしまい、ズルズルと腰を落としました。バチン、バチンと金属を弾くような音がして、あの老人のほうを見ると、両腕にペンチを持って、次々に金網を切り開いています。「おい……おじいさん、ちょっと、なにを」 慌てて私が立ち上がる間に、老人は両腕で切った金網を押し広げました。手すりに足をかけ、もう一方の足を、さらに宙へ。「じいさん……じいさん!」 遅すぎました。私が金網に手をかけると同時に、老人の身体はすっかり金網の外にでて、その小さい身体が、ミニチュアの町に飲み込まれるように、みるみる小さくなっていきます。(さんにんめ) 地響きのするような低い声がして、真っ白な空が、まばたきしました。
雨に濡れた靴をクチュクチュと踏み鳴らしながら夕べの悪夢を思い出すハテ?何をフンづけてたんだっけ?
雨音にフッと射す雷光。 轟きと声ならぬ声。 ……秘めて聞き入る。
一つの事象があってそれに二人の人間が立ち会ったすると何故だろう二つの異なる結果が導かれた全く異なる感情の下一つの有為があってそして異なる・・・ゆえに人間関係は破綻せり
爪立ててかけらひとつもわたさない君を誰にも君を君にも
たくさんの糸が張り巡らされ腕に絡み頬に食い込み身動きもままならず呼吸すらも苦しくあるこの糸を張ったのは誰だ
ひそかごと 耳すましてる 影法師
さて、わたくしは、いつものように胡座をかいて、おおどおり、いきかうひと、びとの、かおを飽きずながめ、ハ、みな、もとは猿だてぇのに、ばるえーしょんがあるものだなと、顎髭をいじっておりました。手の、ふるえもなくて、きげんがよろしかったのです。 天下太平、きがねはいらない公道です。すぎゆくかぜは碧いろ。あるいてるだけで汗をかく。春陽気、春陽気かな。ツツジがまんかいです。そう、視線がひくいと、ひとにはみえぬものがみえてまいります。歩道タイルの罅割れ、ちゅういんがむの黒い塊、できることなら、蝦蟇口でもおちていてくれないかしらん。そうしたら、このきちゃない服も、ようやっとあらえるのだけど。 ふと、紫がかったピンクのツツジをみていると、頭蓋のおくで、チクリチクリとなるものがありました……そう、お袋が、こんな色した口紅をしていたような……水商売だった母は、昼に起き、夕に仕事にでかけ、朝に帰ってくるのです。酒飲みの父親に殴られ、泣きながらアパートを飛び出し、母の店に逃げ込もうと夜道を泣きながら歩きました。酔っぱらいにからかわれて、怖かったのが鮮やかなネオンのように忘れられません。酒は、いけません。人に悲しい思いをさせるから。 ふと、膝の上に重みを感じました。虫? いえ、そこにいたのは、一人の看護婦さんでありました。ちいさなちいさな、こゆびくらいの看護婦さん。 ぼろぼろに擦りきれた作業ずぼんの、うえで、かんごふさんはしゃがんでおります。かげになってよくわかりませんが、すわりこんでいるだれぞやらに話しかけているのです。そう胡座をかいて……ああ、なんじゃ、わたくしではありませぬか、なんとちいさくなったわたくし……あんなに手を震わせて……。 目のおくが、ジーンとなって、瞼をとじると、なにもかもがまっしろになりました。
君の名は?そう訊ねたときから 病がはじまる君の名は?その瞬間から 体系化がはじまるただひとことが、恋という路を通って心的外傷という意味を指さす普通 普通 普通 普通だ・・・・!!何より 君が名識らぬことを この妾在らぬことを
ああそうだ。ここは森だ。地図上には存在しないが、誰もが迷い込むという。そして、誰もが持つという心の森だ。森を抜けても、心の中に森は確実に存在し、消えることはない。人は森を抱えて生きているのだ。迷うのは自分自身の心にだ。いつ迷うかわからない森を心から消すことはなく森と共に生きるより他はないのだ。
真っ暗闇の道を、僕は歩いている。くすんだ空に星の見える事はなく、流星の流れる筈もなく。靄のかかった道を、僕は歩いている。くすんだ空に日の光を見る事はなく、虹のかかる筈もなく。幸せを掴む筈のこの大きな手は他人を助ける為だけに有り、自分が助かる筈もなく。幸せになる為に生まれ出たこの身体は他人を幸に導く為にだけ有り、自分が助かる筈もなく。僕の笑顔は己の幸福の現れではなく、他人の仕合せと共に有り。靄のかかった道を、僕は歩いている。さて、僕は何処に行くのだろう?
曇り空のした撮った集合写真アイツの顔だけがニコニコと薄気味悪く無用に生を燃焼しているように思えたのは気のせいではなかった
折れた花持った女が泣いている「でも捨てることは出来なひ」と言ふ
日没が近い郊外の住宅街は、橙色の粒子がキラキラ輝きながら漂う空気にスッポリ覆われて、毛布の中でぽかぽかに身体を暖めてグッスリ眠る赤子のように、その呼吸を緩やかに整えようとしている。小学校からの帰り道、由美は別れ道で友達にバイバイと手を振ると、ペチャクチャおしゃべりで失った時間を取り戻そうとするように、赤いランドセルの中でプラスチックの筆箱がカタカタ音を鳴らす小気味良いリズムに合わせて小さな手足をいっぱいに動かして、アスファルトの上に長い影を従いながら走っていく。 由美はまっすぐ家には向かわなかった。隣家で子犬を飼っていて、るん太と名付けたのは由美だったのもあって、ペロペロ手の平を舐めたり、お手やお回りを覚えさせるのが楽しみだった。色んな庭木が密集している隣家は中年夫婦二人きりで、貫禄がよくガッハッハと大口で笑うおばさんに、やさしいけれど貧相に痩せて妻より背の低いおじさんは、蚤の夫婦という言葉が滑稽なくらいぴったりあてはまった。 隣家の庭に忍び込む。由美はまだ小さいから、それが悪いことだと思っていないし、隣家の夫婦は子供がいないせいか由美に優しく咎めない。雑草や小石を踏みしめ由美は庭木のトンネルを抜ける。オレンジ色の木漏れ日がポッカリと大きくなって、そこに三角屋根の犬小屋が由美を待っていた。 でも、犬小屋の中に、るん太の姿はなかった。赤い首輪だけが、犬小屋の中の暗がりに転がっている。「豚がね」 大人の声に由美は振り向く。「犬を殺したんだよ」 痩身を夕日で真っ赤に染めた隣家のおじさんが、縁側に立ち尽くしていた。シャツの腕をまくり、顔中に貼り付く汗の玉を拭おうともせず、焦点のぼけた瞳で由美を、いや、犬小屋を見ている。青い顔色が夕日の蜜柑色と混ざって死人のような鈍色。「ぶた?」 由美は、おじさんの背後の部屋の様子が妙なのに気付いた。暗がりでよくわからないが、和室六畳間の畳やその下の板が外されて壁や襖に立て掛けられているようだ。部屋の真ん中に、床下への穴が開いている。「そうだよ」 おじさんはくるりと由美に背を向けた。そのとき、初めて由美はおじさんが室内なのに土足なのに気付いた。奥の座敷に入ったおじさんの姿は影になり、影は身を屈めて長い棒のようなものを拾い上げた。それは、錆だらけのスコップだった。拾い上げた瞬間、スコップの先が夕日に照らされ、赤く濡れた光を反射した。「二つも穴を掘りゃなきゃならない」 おじさんの声は、小さかった。
傷を負ひ逃げまとふこと続けおり逃げるもつひにはかなはざりきを
熱い首筋 突き刺さる爪流れ出す紅い血に浪漫の薫り毒を飲み干し 蹲るなら美しく咲けるように コロシテアゲル今 飽和したこの世界に 疲れたのならここへおいで一瞬の苦痛 抜けたらそこに 無情なまでに広がる快楽愛おしい 腐敗の夢を抉り取り しゃぶりつき 私は生きる醜く朽ちて 崩れ逝くなら敷き詰めた華の上で キザンデアゲル偽善に満ちた 人々が笑う この世界では 美貌も歪むキミの為に 手を差し伸べよう 背徳の唄 遠く響いて跪け この宮殿で赤色ビロ−ド 風にたなびく愛を乞え 最上の愛を弛むことなく 注いであげるから跪け 進化を夢見て再生の時は 目の前にある垂れ流せ 抑圧の全てを新しい月の下 導いてあげるから*4年程前のモノです。恥ずかしや...そして、下手な歌詞...*
しじまの声を聴け確かに聞こえる音無き声を
おそろしき物語よむ真夜中の吐出す息の中の 猟奇歌
息白く冷えたる指を重ねつつ桜越しに見る月ぞ清けき
乗客の命預かる運転手は一人思いに耽る殺したいヤツだけを乗せたバスツアー
「次ノニュース。今日ノ雨ハ櫻ヲ吹キ散ラシタ・・・櫻ヨキミガイナクナレバ我ノココロハ荒ムノデアルカラシテ戻ル事ヲコソ求ム厭々云々」・・・・・此の樹仰ぐ 聞こゆるは躯の音 叫の音
ギターをかき鳴らし張り詰めた夜の静寂を破ってみるひとたび怒った弦たちは再び静かな眠りについたこのまま寝かせてあげようとソッとギターを置く
桜舞う宴の森に一人ゐて闇なる天を掴まんとする
桜の本日しだれゆく花枝しだれゆく曇空しだれゆく其顔触れもあへず 枝の下泣惑せよ
桜の木の下で不合格通知片手に記念写真合格者の胴上げに参加してみる不合格者浪人試験の合格通知が届いたすべり止めに受けた学校が、本命だったのに・・・受験の下見でこの学校には飽きた散り行く桜の花びらはこの上なく美しい五度目の受験のこの学校初受験の同士はもう卒業したのカナ
人は皆迷ひの中で生きている夢もうつつも己がものゆへ
どうやら、削除キーを覚えていたおかげで、三分割の「濁った銀色の匙」を削除できたようです。新しく「灰褐色のコンクリート」を投稿しました。ウーム、なんて読みにくい話なんだ。
不眠症の原因というのはいろいろとあるのだろうが***国への抑留体験を持ち今年八十二歳になろうとしている私が眠れなくなるのは蒲団に入りうつらうつらとしたところで鶏の鳴き声が聞こえるからでどういうことかと言うと少しばかり長い話になるが***国の強制収容所での一日は点呼から始まり砂色の瞳の兵士が鞭を手にして私達をコンクリートが剥き出しの壁の前に裸足で一列に並ばせると数百人もいた私達だから一番端の仲間が自分の番号を叫んでも全然聞こえなくてそのうち冷たいコンクリートに素足が紫色になり震えがとまらなくなって脳味噌まで縮こまってしまいそうになるうちにやがて遠くから番号を叫ぶ声が聞こえてきたのだけど日々の労働の疲れと睡眠不足から頭の芯がボーっとなって駄目だ駄目だ自分の番号が言えないと奴らに殴られるぞ反逆の恐れありとみなされ銃殺だ奴らにとっちゃ俺達なんぞ数が減ってくれたほうがいっそ管理しやすくてありがたいくらいなんだからななどと自分を叱咤するのだけれども次第に身体がふらふら揺れてきて瞼を閉じてしまいそうになって時々目の前を往復する自動小銃を肩に担いだ兵士のニヤニヤ笑いにハッとなってドンドン号令の声が大きく大きくなっていくのを感じながら必死に身体を立て直すのだけど豆だらけの掌の痛みも骨肉の軋みも全てが遠く感じてウツラウツラしていると不意に、鶏の鳴き声がした。 号令が、とまった。 床に、私の隣に立っていた仲間が、後頭部に穴を開け、うつむけに倒れている。 灰褐色のコンクリートに、音もなく赤黒い染みが広がる。 まるで、とさかのようだ、と思う間もなく、私は自分の番号を叫ぶ。 そして号令は続き、遠ざかり、聞こえなくなっていった。
生々しい臓物のようなラザニアに銀色のスプーンをズヌリと差し込んで、赤いトマトソースに恍惚としながら私は、五歳の子供が涎を垂らしながら前掛けをベトベトに汚して頬張るミート・ソース・スパゲティを思い浮かべていた。(おいちいよ……おいちいよ……) 真昼のファミリーレストランは家族連れで騒がしくて、シャンゼリゼ大通りの原色に溢れるイラストレーションも眉をしかめて耳を塞いでいる。なぜかしら、子供の泣き声は快いのに。 喉奥から喜びがこみあげて口内がムズムズする。舌先を上唇の裏に押しつけると、ジュワジュワ唾液が滲みでてきた。涙腺が緩んでツルツル暖かい水が頬を流れてポタポタとラザニアの上にこぼれ落ちる。私は涙ごと掬ったラザニアを口の中に頬張って、息苦しさに胸が詰まりそうになりながらハイヒールで床をたたく。黒猫のタンゴ。エンドレスなリズム。私の可愛い坊や。 立ち上がってデパートの紙バッグを右手にレシート左手に掴んでレジに行き料金を払って表にでようとしたところで席待ちをしていた親子連れの小学校低学年くらいの兄弟の丸坊主の頭をポカリポカリとゲンコで殴りつけてやって悲鳴みたいな泣き声にウットリしながら泡立つような笑いを抑えきれなくなった。「フフフ……アハハ……アハハハハ……」 晴れ渡った空を鋭角に切り取るビルの連なり、機械的な動作で寡黙に行き交よう人々、酸欠状態の帰り道を酩酊して突き進む。紙バッグを左右の手に持ち替えながら時々空を見上げて立ち止まり、またうつむいて歩き出す。マンションに戻るとエレベータに乗りグングン上昇して、エレベータを下りて私の部屋の前まで来ると鍵を取り出そうとしてハンドバックがないのに気付く。どこに置き忘れたのだろう。 紙バッグの中かもしれない。左右に紙バックの口を広げようとして、うっかり指を滑らせ、落とした。チャリンと金属音がして、いつの間にか紛れ込んだ、あのレストランのスプーンが転がりでる。 紙バックの口から、青白い、小さな、握り拳も、はみでていた。 私はスプーンを拾って口の中に入れる。砂利がついてしまったのか、チーズと金属の味が混ざっていた。
ひろぽんさん:> 投稿文字数制限を10倍(10KB)にしておきました。(笑) どーも無理なお願いしてすみません。 さ、さすがに10KBの投稿はしないですけど(笑)。> ご要望があれば、3分割投稿のログをつなぐか、> もしくは完全版を再投稿されれば削除しておきますよ。 あ、では「濁った銀色の匙」だけ再投稿しておきます。では、よろしくお願いします。
黒き蟲這いずる如き音立てて火を吹き心の脱け殻は燃ゆ
僕の唄に合わせて女はオドル・・・。楽しげに。楽しげに。唄が終わった後の異常な静けさも予測する事無く・・・。僕の唄に合わせて女はオドル・・・。
どうもすいません。投稿文字数制限を10倍(10KB)にしておきました。(笑)CGIの設定、デフォルトのままだったんですよ(^^;ご要望があれば、3分割投稿のログをつなぐか、もしくは完全版を再投稿されれば削除しておきますよ。
己が手ではりなる心の内側を爪で音立て引つかいている
彷徨える魂は毎夜願ふ早く殺してと毎夜願ふ張り詰めた空気の真冬空闇夜を見上げ星空にゆらりゆらりとただ彷徨う
どこかでほころびてしまったあたし長く長く こぼれてゆく糸が誰かの傍をすりぬける ’ぴん’と音がしたらその先は 君の手にとどくといいどこかでほころびてしまったあたし長く長く 糸がこぼれてゆき誰かわからなくなる ’するっ’と音がしたらその先を 君がたぐってくれるといいどこかでほころびてしまったあたし長く長く こぼれてゆく糸が誰かの手をすりぬける ’かたり’気がついたら君の笑顔が そこに転がってるといい遠く遠くから あたしも笑いかけよう ほころびたまま http://www.eva.hi-ho.ne.jp/yoko-i/95j022/
http://www.eva.hi-ho.ne.jp/yoko-i/95j022/
彼女はうずくまって,瞳のみを開き何かを見つめていた。腕でひざを抱いて,自分のこの感情がこれ以上,外へと流れ出さない様に。自分と世界を隔てるために,瞳を開き続けた。 そうしていれば,外から傷つけられたとしても,自分が外を傷つけることは少ない。水分を含んだ瞳こそが,その他の世界を遮断し,彼女を食い止めている。流れる涙は最大の鎧なのだ。日々,涙の鎧を作り出すことが,彼女を守った。
お頼みしますじゃ〜、投稿できる文字数をもうちょっとばかり増やしてくださりませぬか〜。 さすがに3つにも分割すると全然雰囲気がでないよ〜(泣)。 コメントついでに書いてしまうと、いま、このページでは<※削除>さんの「赤い月」がいいですね。出だしがうまい。藤原真秀さんの、こういう「切なさ」系にも弱い。夢野の「春の夜の……」という句を思い出す。
夢に見た月の舟の乗り方を彼女に教えてそっと首を噛む http://dogramagra.tripod.co.jp/
10月12日 ケフは世界のユユシキ象ニナル夢にウナサレル 10月13日 ジャマランカ ニッチャ イモ喰エ アスハ雨ナヤ 皇国ノ果テ ジャマランカ
今ひとり胸の想いの苦しきにただ君の手に殺められたし
転がる空缶がカラカラカランと泣いている自動車にフンづけられて潰されて流す涙もかき消されてゆくごみ箱に残された同士たちは助かったとばかりに一息・・・やがて清掃車の向かいが来る
今度こそ・・・思いながらも又、白き首が僕を惑わす。「もう君で終わりにするから・・・」君の頬に苦悶の涙。僕の頬に歓喜の涙。 http://dogramagra.tripod.co.jp/
我愛でし奴から順に食らふ癖笑みし口端に銀朱の尾鰭
(石鹸……石鹸……) まったくゆとりのないことだ。女に一言悪態をついて部屋を出てエレベータに乗りフロントを過ぎて夜更けの街路に立つと、ひどく風が冷たかった。濡れたままの前髪が眼を突き刺し、濡れているワイシャツが体感温度を奪う。(石鹸……石鹸……) ドラッグストアを探すには三ブロック歩かなければならなかったがそれで済んだなら幸いで、店に入り目立たないように髪を整えながら青い箱に牛のマークの石鹸をひとつ掴んでレジに向かった……しかし、レジに近づくと、レジの女性店員がひどく怯えた眼でみつめている……さりげない動作でネクタイをなおしながら石鹸の箱を差し出す……。「これ……ひとつ」 甲高い悲鳴がした。 店員が叫んでいる。クルリと回れ右してレジから逃げ去る……だが、視線は店員を追うことができなかった。青い石鹸の箱を持った手……血塗れの手。 記憶の底で、あの女がポワリと湯船にあぶくを浮かべた。
こうしてはいられなかった。どうにかしなきゃならない。 小さな街のホテルで、ジジジジ音を立てて明滅する黄色く濁った剥き出しの蛍光灯の下で、拭っても拭っても曇っては曇る鏡の奥に、血走った眼が睨み返した。ドッドドッドと湯が小さなバスルームに流れ込んで溢れ出て、小指の先程にバスルームは浸水状態だ。 こうしてはいられない。石鹸はどこだろう、手を洗わなければ、病気がうつってしまう。「おい」 バスルームに首まで浸かって天井を見上げる女はポッカリ口を開けて返事もせずにプカーリプカーリ。「おい、おい、おい……石鹸はどこだ」 プカーリ、プカーリ、茶色い髪が浮かんで。首が沈んで。「おいったらおい……なんてこった」 汗だらけのワイシャツに緩んだネクタイで頭を掻きむしってバスルームを飛び出てベッドから上着をつかみ(もちろん財布を確かめるのを忘れなかった……あんな女は信用できない)濡れた靴下は気持ち悪くて脱いだら思い切りよく屑籠に放り込んだ。
遊ぶ金欲しさに強盗したら千円札にシルシがあった子供の頃に私の付けた過去の自分のささやかな警告